ビブリオバトル②『「魍魎の匣」 京極夏彦 講談社』

「匣の中には綺麗な娘がぴつたり入ってゐた。」

 

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私が紹介する本は京極夏彦の『魍魎の匣』(もうりょうのはこ)という小説だ。

この『魍魎の匣』は小説家の京極夏彦が執筆した百鬼夜行シリーズの二作品目である。二作品目ではあるがこの作品単体でも話は追える様にはなっている。

(しかしより作品を楽しみたいのであれば一作品目の『姑獲鳥の夏』を読むことをお勧めする)

ジャンルに関してはオカルト色の強いミステリー小説であり、

この作品は第49回日本推理作家協会賞を受賞している。

 

まずは簡単にあらすじを紹介しよう。
舞台は1952年の夏、ある美少女が電車の線路に落下するという事故が発生する。 

電車に引かれた少女は重傷を負い、治療のため匣にそっくりの形をした美馬坂近代医学研究所に運び込まれ治療を受けるが、病室から忽然と姿を消してしまう。

この転落事故は消失事件へと変化した。

更に少女の切り落とされた四肢が匣に詰められて発見される連続バラバラ殺人事件、そして匣を御神体として奉る怪しげな新興宗教、これらが絡み合い「匣」を中心として事件は複雑怪奇な様相を見せる。「匣」にまつわる事件の真実とは何なのか、そして事件の背後に潜む「魍魎」とは一体何なのか・・・。

 

 タイトルに含まれる「匣」(はこ)と「魍魎」(もうりょう)は小説の中で重要なキーワードだ。

 中には「魍魎」と聞いて妖怪が出てくるのではないか?と思う人もいるだろうが、

この作品での「魍魎」は人の心の在り様を形容する言葉であり、実際に化生の類が出てくることはない。だから、そうした化け物が苦手な人も安心してほしい。
 

この小説の魅力は、

緻密に描かれ作品を形作る個性豊かな登場人物、

どこまでも重く描かれ陰鬱な気分にさせる情情景描写、

そしてなんといっても作品の節々に挿入された

「蘊蓄」や「小話」。宗教学・民俗学・哲学・心理学などといったようにジャンルの多様性

こうした複数の要素が融合することでこの作品は異様で人を没頭させる独特な雰囲気を有した極上のエンターテイメントとして仕上がっている。


もちろん多少の欠点も存在する。この作品は「どのように殺したのか?」といった手段よりも「なぜ殺したのか?」という原因に焦点を当てており、またオカルト色も非常に強いために、本格ミステリーに比べるとトリック自体は単純かつ強引なものとなってしまっている。
とはいえ、この作品の持つ読者を引き込む圧倒的なパワーの前ではその程度、些細なことだ。

 月並みな言葉にはなるがこの作品の良さは読んでみないと分からないため、是非読んで欲しい。

きっとあなたも私のようにこの小説の生み出す世界に引きづりこまれ、あっという間に最後まで読了してしまうだろう。

大学生ということで教養のために読書をするというのもいいだろうが、

時には純粋な娯楽としても本も必要ではないだろうか?

 そうした際にはこの本はうってつけと言える。一人でも多くの方がこの小説の魅力に気づき、はまっていただければ幸いだ。

明治大学マーケティング研究会 1年 江本 直